交渉力のプロフェッショナル

| コメント(0) | トラックバック(0)

ケロッグの教授であるブレッド氏の原著を、同講座のフェローでもある奥村氏が訳した。他の訳書と違い、非常に読みやすい(但し、BATNA,リザベーションプライスなどの専門用語はある)。

本書は、交渉を取引交渉、紛争解決交渉、チーム内意思決定交渉、政府との交渉に大別し、各々で文化間の際を分析した。取引交渉の章では、アメリカ、日本、香港、ドイツ、イスラエルの文化的背景をもつ被験者の取引交渉について分析を行っている。

用語:

BATNA
best alternative to a negotiated agreement;その交渉で合意しない場合に、取り得る最良の条件。最良代替案。常に意識し、かつ改善に努める。

リザベーションプライス
売り手は下限、買い手は上限の価格。一旦決めたら原則は変更しない。

分配型合意と創出型合意
分配型合意とは、一定の価値を両者で分け合うこと。創出型合意とは、新たな価値を作り出すこと。分配型合意だけを目指してゼロサムゲームに終わってしまうのではなく、両者win-winとなるように価値を創出すべき。但し、創出された価値を両者でどのように分配するかは分配型の交渉となる。

取引交渉における創出型合意:日本は同文化(日本人同士)では比較的高い創出型合意を見出しているが、アメリカとの交渉では合意点は低い。
取引交渉における分配型合意:日本は同文化交渉の際には買い手と売り手の利益はほぼ同じとなったが、アメリカ人の売り手と交渉した際には創出した価値の1/3程度しか得られていない(創出価値の2/3はアメリカ人にわたった)。
これらの合意結果着地点は、取引の目標(ターゲット)の置き方による。集団主義者(日本など)は個人主義者(アメリカなど)との交渉では、かなり極端と思われる目標から始めるべきだ。ターゲットには情報が必要である。そのために、類似取引の事例や交渉相手及び自分の規範の情報を集めること。

交渉時に用いる影響力には、直接的な影響力(説得、主張、立証、脅し)と間接的な影響力(共感への訴え、個人的関与への言及、地位への言及)がある。日本は同一文化の交渉において、直接的な影響力を使用する場合が他の文化(アメリカ、イスラエル、ドイツ、香港)に比べてきわめて多い。
交渉に重要な情報について、相手に直接的な情報提供(嗜好への質問と回答など)を行う場合と、間接的な情報提供(プロポーザルとカウンタープロポーザル)を行う場合がある。他の文化に比べて、日本は間接的な情報提供が非常に多い。

* * *
「交渉戦略」の章は、CARTOON(漫画)をTV会社に売り込む制作会社というケースを元にかかれており、わかりやすい。が、逆に言うと、ケーススタディをしないと、本書で書かれている交渉理論はなかなか理解しにくい。「頭ではわかっても、体が動かない」という状態になるだろう。
本書から日本の記述だけを抜き出してみたが、その対極がイスラエル。ちょっと違う意味の対極がドイツ。イスラエルは納得できたが、ドイツは日本以上に信頼を大切にする(長期の利益を重要視する)ことに驚き。
交渉では事前準備の重要さ(情報収集と、種々のオプションの作成)が鍵であることを痛感した。成功に王道なし、と言うところだろう。


交渉力のプロフェッショナル―MBAで教える理論と実践
4478374457ジーン M・ブレット

ダイヤモンド社 2003-09-20
売り上げランキング : 225,845

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

関連商品
戦略的交渉力―交渉プロフェッショナル養成講座
説得技術のプロフェッショナル
「話し合い」の技術―交渉と紛争解決のデザイン
マネジャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋
問題解決の交渉学

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://thik.jp/MT-5.2.8/mt-tb.cgi/660

コメントする

このブログ記事について

このページは、thikが2005年11月25日 01:45に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「検索の前後処理を強化:goo」です。

次のブログ記事は「図書館の違い」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。